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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2530号 判決 1965年10月21日

控訴人(原告) 日本商工振興株式会社破産管財人 後藤助蔵 外一名

被控訴人(被告) 日本橋税務署長

訴訟代理人 山田二郎 外二名

主文

原判決中被控訴人に対する請求に関する部分を次のとおり変更する。

被控訴人が破産者日本商工振興株式会社に対してなした別紙目録記載(2)の更正決定を取消す。

控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟の総費用はこれを五分し、その三を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、訴の一部を取下げて、「原判決を取消す。(主位的請求として)被控訴人が破産者日本商工振興株式会社に対してなした別紙目録記載(1)(2)の各更正決定は無効であることを確認する。(予備的請求として)右請求が理由なしとすれば被控訴人が破産者日本商工振興株式会社に対してなした別紙目録記載(2)の更正決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の関係は、次に附加するもののほかは原判決事実摘示(但し、特に原判決添付第一目録記載の各課税決定及び徴収決定、同第二目録記載(ロ)の課税決定、同第三目録記載の各滞納処分に関する部分を除く)と同一であるから、これを引用する。

控訴代理人は別紙第一書面記載のとおり、被控訴代理人は別紙第二書面記載のとおり、それぞれ陳述した。

(証拠省略)

理由

日本商工振興株式会社(以下破産会社と称する)は昭和二九年七月八日破産宣告を受け、控訴人らがその破産管財人に選任されたこと、被控訴人税務署長が破産会社に対し別紙目録記載(1)(2)の各更正決定をなしたことは、当事者間に争がない。

次に、成立に争のない乙第三乃至第五号証、甲第一号証、当審証人佐野幹彦の証言によりその成立を認めうる甲第一二号証、原審証人福田好、同谷和男、当審証人佐野幹彦、同常盤松美の各証言を綜合すれば、

破産会社は、貸金業その他を営業目的とし、昭和二五年五月一〇日資本金一〇〇万円(一株の金額五〇円、二万株)をもつて設立され、その後昭和二八年九月頃に至る迄継続的に幾度となく増資手続を重ね、遂に資本金として一二億円を計上するに至つたこと、ところで、破産会社は、右の各増資に当り、まず、破産会社の役員または職員等を形式的に株式引受人とし、株金の払込は、所謂見せ金により、破産会社の取引銀行を株式払込取扱銀行とし、同銀行に対する破産会社の当座または普通預金をもつて株金の払込に充て、払込保管金(別段預金)口座に振替え、増資の登記手続を完了した後、もとの当座または普通預金に戻入れる等の方法をとつていたこと、他方、破産会社は、右の各増資毎に、実質上払込のない所謂空株(抱株)の無記名株券を発行し、ついで、本社はもとより関東地方一円に亘つて設置された支社或いは支部または営業所並びにこれらが雇傭する多数の外務員を動員して右株式の譲受人を募集し、その応募者をして、一時払により、もしくは、破産会社において経理操作により一時券面額相当の金員を立替え、これを日賦または月賦償還させる方法により(但し、実際には一時払による例は極めて少なかつた)、券面額相当の金員を全額支払わしめた後、株券を交付する(なお、右の償還金の支払を怠り、または、償還契約を解消したときは、既に払込の分より所定の経費を差引き、償還期間満了の後に無利息で返戻する)こととしていたこと、このようにして株券の交付を受けた者が株式の譲渡を希望する場合は、それが一定の期間を経過していれば、何時でも、破産会社は、その券面額による譲渡の斡旋方を引き受け、株券の提供があれば直ちにこれと引換えに即ち譲受人の有無にかかわらず、同人に対し、株式譲渡代金の立替払名義の下に券面額相当の金員を支払うものとし、これら譲渡申込にかかる株式については、更に、前記同様の手段方法により、その譲受の希望者を募集し、その応募者から券面額相当の金員の払込を受けることとして、これと前記新株発行による増資との二元的操作を繰り返えしていたこと、なお、株式譲受の応募者がないとき、或いは、それが不足のときは、その部分につき形式的名義人に対する貸付金の形をとり、株券はそのまま破産会社に留保されていたこと、また、破産会社は、前記の方法により株券の交付を受けた者に対し、一定の期間を経過した後において、一定金額を限度として持株金額の三倍迄融資をするものとし、右の融資を希望しない者に対しては所謂株主優待費なる金員を支払い、その額は、前記のような株金支払の方法または株主優待費の支払方法等の如何により異なるか、一定の割合(これは、いずれも、一般預金利子より高率である)によつて計算されたものであり、しかも、それは、正規の利益配当とは別途に(もつとも、現実には、このような利益配当は全くなされていなかつた)、破産会社に利益があると否とを問わず、かつ、破産会社の決算期には全くかかわりなく支払うものとされていたこと、そして、破産会社の前記株式譲受人の募集に際しての宣伝文句は株主相互金融方式による手軽な融資と高額な株主優待費の支払ということであり、株主となつた者の一般的な意思も、会社の業績向上に伴う増配または増資による利廻りの向上とか株価の昂騰による転売利益の獲得を目的とする通常の株式投資の場合と著しく趣を異にし、融資を受ける便宜を得ようとするのでなければ、もつぱら、有利にして確定した高率の株主優待費という金員の支払を受けることによる利殖を期待していたこと、

以上の事実が認められる。

ところで、法人税法は、その第九条第一項において、法人の各事業年度の所得は「各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」と規定し、右にいう益金、損金の意味内容については、特に個別的に規定する場合を除き、一般に解釈に委ねているが、ある支出が、益金処分となるか、それとも損金を構成するかの判断に当つては、その法的形式の外面にとらわれることなく、当該企業経営の実態を解明し、問題の支出が企業の経営において果たす役割乃至機能を実質的に把握考察して決すべきものと解される。今これを破産会社の本件株主優待費について考察するに、前記認定の事実から明らかなように、破産会社は、形式的に、会社の役職員等が新株を引受け、株金の払込をしたこととして増資の手続を整えているけれども、それは所謂見せ金によるものであつて、実質的な払込はなく、また、この増資手続による株式を譲り受けた者のため、破産会社は、一時その譲受代金(それは、株式の時価ではなく、常にその額面金額と同額である)を立替払(但し無利息で)して、これを割賦償還させるものとしているが、右の立替払というのも単に経理上の形式的なものに過ぎないで実際に支払われるものでなく、結局、実質的には増資新株に対する右の割賦償還金の払込によりはじめて株金相当額の社外よりの支払がなされる計算となるのであり、そして、右の償還金の支払を完了した株主は、一定の期間を経過すれば、その払込金額に対し、破産会社より一定率による株主優待費名義の金員を、破産会社の利益の有無にかかわりなく、かつ、その決算期と無関係に支給され、更に、その希望により何時でも株券と引換えに、破産会社よりその斡旋による株式譲渡の代金の立替払を受ける(それは譲受人の有無にかかわらず且つ株式の時価と関係なく、その額面金額と同額で破産会社が株式を引き取ることにほかならない)ことにより、実質的にはその払込金額相当の金員を回収することができ、また、破産会社の株主一般の意思も、通常の株式投資の例と趣を異にし、もつぱら、高率な株主優待費の受給を期待していたのであるから、これらの事実その他前記認定にかかる事案の実態を直視する限り、破産会社の株式は極めて特異な性格、機能を有し、会社資本としての意義は全く名目上のものに過ぎず、実質的には広く預金乃至掛金を集めるための手段であり、これに対応して支払われる株主優待費なるものも、名目はともあれ、その実質は資金利用の対価たる預金利子類似のものに外ならないといわざるをえない。従つて、企業会計的見地からすれば本件株主優待費の支出は法人税法上破産会社の損金を構成する(もつとも、その支払を受ける株主にとり、それが所得税法第九条第一項第一号の利子所得となるか、同項第一〇号の雑所得となるかの点はしばらく措く)ものと解すべきである。

しかるに、被控訴人が、破産会社の本件株主優待費の支出につきその損金性を否認して、別紙目録記載(1)(2)の各更正決定をなしたことは当事者間に争のないところであるから、右の各更正決定はいずれも違法のものというべきであるが、しかし、本件株主優待費の支出が法人税法上の損金に該るか否かは、上述のような本件株主優待費の有する実質的経済的な意義乃至機能の確定と、見解の分れうる法人税法上の論点についての解釈を俟つてはじめて判定さるべきものであつて、その判定の誤をもつて直ちに明白なものとは到底いえないから、他に特段の事情が認められない以上、右の違法は前記各更正決定の無効原因となるものでない。従つて、その無効確認を求める控訴人らの請求部分は失当として棄却を免れない。

しかしながら、控訴人が取消を求める別紙目録記載(2)の更正決定につき、被控訴人がその処分の根拠として主張する破産会社の該事業年度における所得の計算において、益金に計上された株主優待費の支出額金一二四、四三二、〇〇一円を損金算入の上、所得の計算をし直せば、破産会社の該事業年度における所得はなく、却つて欠損を生ずることは算数上明らかである(なお、被控訴人主張のように、破産会社において損金計上をした源泉徴収所得税額一七、一六九、六三四円を益金に算入して計算しても、依然欠損を生ずることには変りがない)から、別紙目録記載(2)の更正決定はその全額につき違法であり、従つて、その取消を求める控訴人らの請求は正当として認容すべきである。

よつて、右と異なる限度において原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥野利一 真船孝允 海老塚和衛)

(別紙)

(第一)

控訴人の主張要旨

一、株主相互金融会社としての破産会社が自己資本調達の方法として、果して、如何なる方法をとつてきたかを更に次のとおり明確にしかつ補正する。

(一) まず第一の方法としては、新株発行の方式によるものである。すなわち、破産会社は、一般公衆から希望者を募集し、応募者は、主観的には、あるいは高利すなわち株主優待費付きの預け金を目的とし、あるいはまたいわゆる株主相互融資を受けることを目的とする。しかしその主観的意図はいずれにあれその目的を達するためには応募者が破産会社の株主たる資格を取得することを条件としている関係上、破産会社はこれら応募者に新株を引受けしめて、株主であることを要求するのである。しかして新株の発行の場合は、これらの応募者は株式引受人となるわけであるが、その引受株の払い込みについては、まず破産会社がこれら株式引受人に払込金を貸付けたことにし、これと併行して破産会社は、会社の金銭または預金をもつて払い込みを完了し、そのうえで無記名株式を発行する。この発行株式は、本来それぞれの各新株引受人(新株主)の取得するところであるが、いわゆる前記貸付金に対して、一時にこれを支払う株主を除き、日賦、月賦の方法でこれを支払う株主に対しては、破産会社はその持株券を会社で保管し、日賦、月賦の支払額が、各新株主の持株券面額に達したとき、はじめて当該株券を交付する。この貸付金支払いの方法において、一時払いをなす株主は例外的存在であつて、原則として日賦、月賦の方法によるものが圧倒的多数である。

(二) つぎに、破産会社の自己資本調達の第二の方法としては、既発行株式の譲渡、譲受けによる方式である。すなわち、破産会社の既発行株式は前述したところからも判るように、株主が、破産会社の株主に対する新株払込金としての貸付金の支払いを途中でやめ、返戻金の支払いを受けた場合、または株式譲渡を破産会社に申し込み、破産会社からいわゆる譲渡代金立替金の支払いを受けた場合、いずれも当該株主の株式が破産会社に保有せられ、これがさらに新たな株主希望者に破産会社の手によつて譲渡されるわけである。この種の株主も、その譲渡代金の支払方法としては、極めて少数の一時払いを除けば、原則的に、破産会社に対する日賦、月賦の方法による。

二、前項において、破産会社の自己資本調達の方法としては、二種別の異つた方法が行なわれていたことを明らかにしたが、これら両場合の株主とこれに対する株主優待費の支払いとの関係をつぎに明らかにする。

(一) まず前項(一)において明らかにした新株引受による株主とこれに対する株主優待費の支払いとの関係は<1>株主は、貸付金の支払いを完了しない限り、株主優待費の支払いを受ける資格が発生せず、その反面、途中で解約して、従前支払つた借受金から所定の解約手数料を差し引かれた残額を、解約返戻金として受け戻すことができると同時に、株主たる地位を喪失する。<2>貸付金の支払いを完了しても、一時払いの株主をも含めて、支払完了後一定のいわゆる据置期間を経過しなければ、株主優待費の支払いを受ける資格が発生しない。<3>貸付金の支払いを完了し、一定期間を経過しても、破産会社から融資を受ける株主は、株主優待費の支払いを受ける資格がない。<4>以上の点からみて、株主優待費の支払いを受けることができる株主でも、破産会社に対し、株式譲渡の申し込みをなした株主は、譲受人が具体的にいなくとも、破産会社から株式譲渡代金立替金として額面相当額の支払いを受けることができ、このことによつて、株主たる地位を失うと同時に、株主優待費の支払いを受けられない。このように、株主相互金融会社としての破産会社の株主優待費の支払いを受ける資格は、すべて同種同一の株主でありながら、通常一般の株式会社の株主の受ける利益配当の場合とは全く異り、株式すなわち株主の地位そのものと直接何ら関係のない異質の事柄や条件によつて、いろいろと段階づけられているのである。このように、同一株式、同種株主に対する株式関係以外の事項による異別的取り扱いこそ、破産会社の本質的特徴であつて、このことはまた株主優待費がいわゆる株式会社の利益配当でない所以を示す一つの証左でもある。

(二) つぎに、前項(二)において明らかにした既発行株式の譲渡による方法によつて株式を譲り受けた株主と、これに対する株主優待費の支払いとの関係は、一時払いの株主をも含めて、いずれも右(一)において説述した新株発行による株主の場合と全く同一の前述の<1>ないし<4>の段階性を持つており、この段階性は株式すなわち株主たる地位そのものの差異から招来するものとは、全く関係がないのである。

(三) 以上に述べたところから判るように、破産会社の株主はおしなべて一様に無記名式株式を持つ同種同一の株主である。ところがそのうち持主優待費を受けることのできる株主の条件は、つぎのような限定を受けるのである。すなわち、<1>株式取得のために、全株主は、一時払いの株主をも含めて、すべて一様に破産会社から貸付けを受けるのであるが、その貸付金を破産会社にまず完済すること、<2>第二に右貸付金完済後、破産会社の定める一定期間(据置期間)が経過していること。<3>破産会社から融資を受けないこと、以上三個の条件を完備しなければ、株主優待費は受けられないのである。しかも、以上の条件を備えている株主なるものは、けだし株主のうち少数であることが、一般株式会社と対比するまでもなく容易に想像し得るであろう。要するに、以上三個の条件を兼ね備えた株主というのはその主観的立場からみれば、実質的には、株主相互金融会社に、日賦、月賦または一時払いで、一定の金銭を預けいれ、一定期間を待つて率のいい利息を所期する株主にのみ限られるのであり、したがつてまたこれらの株主からすれば、株式取得の経過からしても、株主という意義よりは、預金者的感覚をもつて一貫されているのである。

三、株主優待費の内容、性質についてつぎのとおり主張する。

(一) 通常一般の株式会社においては、とくに普通株式に対する利益配当は、少くとも決算期における決算の結果によつて、利益配当の有無およびその配当率を決め、これを株主総会にかけて配当する。この場合、いわゆる蛸配の配当も同様であつて、配当の時期を間わない裏配当にいたつては、帳簿の底に隠されているのである。

(二) ところが、株主相互金融会社としての破産会社の株主優待費なるものは、前述のように、株式会社法上は全く同種同一の株主でありながら、<1>そのうちの特殊な株式関係外の異質的事由、条件によつて区別された特定の株主に対してのみ支払われ、<2>しかもその額が決算手続外においてあらかじめ一定されているだけでなく、株主募集の条件に明示され、<3>かつ利札と同様、会社の決算期に関係なく定期的に分割支払われており、<4>しかも、破産の現実が示しているように、損益計算上利益の有無にかかわらずというよりは、欠損計算の上に支出されているのである。

(三) 本件いわゆる優待費が損金とみるべきや益金とみるべきやを判断するには、単に形式的基準ないし次元において観察するのでなく、事を実質的にみてその企業会計学上の性格、機能に接着して検討しなければならないのである。今次商法の一部改正による計算規定の変更の趣旨もまたこゝにあるというべきである。

このような観点から商法の会社計算規定をとおして、本件優待費の性格および機能をいわゆる株主相互金融会社の事業的特殊性に即して観察することとする。いわゆる株主相互金融会社としての本件破産会社は、一審いらい控訴人が屡々指摘してきたように、その本来的な在り方、構造の上からして、商法の規定する株式会社とは実態上およそ懸け離れた存在であり、その株式の機能も資本的性格を有しないものである。すなわち、株式の払込みについては会社資金をもつてこれに当て、本来の株式引受人の現実の払込みはない。換言すれば本来の株式引受人たるべき株主の払込みがありとすれば、それはすでに会社資金をもつて払込み手続を完了した結果発行された株式、すなわち発行済株式の譲受人または株主としての立場において株金相当額を事後的に、しかも日賦または月賦の方法で支払いをなすのであり、その日賦または月賦による支払いの額は当該株式の株金相当額に満たないで途中解約するときは一定の解約返戻金の支払を会社から受け、株主たる地位を放棄するわけである。かくしていわゆる株主相互金融会社の資本構成上の在り方は、本来の株式引受人または株主の引受株式に対する払込み自体には存在しないのであつて、すでに会社資金によつて払込まれ、その上で発行された払込済み無記名株式の取得代金の割賦弁済債務の責任を負うにすぎないのである。したがつて右無記名株式ないし株券はいわゆる株主にとつては株式として機能するのではなくして、実質的かつ経済的には単に割賦支払金の預り証券ないし預金証券として作用することは控訴人申請のいわゆる株主側証人らの証言に照らし明らかである。

この現象を堀り下げて説明すれば、いわゆる株主の無記名株式取得のための代金支払いは、会社側にとつてこそそうである事が、株主側にとつては無記名株式の取得は株式として何らの価値があるわけでなく、むしろいわゆる三倍貸しまたは高率の利息を受ける目的をもつてする預金的性格のものとして受けとめられているのである。しかしいずれにせよ、会社側からいつても、はたまた株主側からいつても、本件破産会社の株式は、株主としての本来的在り方とは絶縁され、資本的性格を喪失しているものというべきである。

これを株式会社の法則からみれば、資本充実の原則は完全に無視され、自己株式取得禁止の原則が回避され、株金一時払いの原則は虚無のものとなり、いわゆる資本団体としての実体を有しないのである。

(四) 右に説明したように本件破産会社はいわゆる株主相互金融会社としての特殊的性格から必然的に導かれて、その株式ないし株券の性格および機能は固有の資本的性格および機能を具備せず、実質的経済的には預金証券化しているのである。

したがつていわゆる株主優待費は、同一立場にあるいわゆる株主にとつて三倍貸しの会社資金の借受け資格の取得と併立する特殊の地位資格に該当するものであつて、株式ないし株主と切断された性質のものであるから、単に株主平等の原則に反する配当ないしタコ配当と同視することができず、むしろ消費寄託ないし消費貸借上の利息に類似する性格を具有するのである。このことは株主優待費を受ける株主といえども株式譲渡の意思表示を会社にすれば、会社は譲受人の存否にかゝわらず株式譲渡立替金の支払いを義務づけられると同時に株主優待費の支払義務が消滅すること、そして当該株式の譲受人がその後において現われても、日賦または月賦による株式譲渡代金の支払を完了し、かつその後一定期間を経過し、および三倍貸しの借入れを申込まない場合にかぎりはじめて一定率の株主優待費を請求する権利がある事実に注目すれば容易に理解することができるであろう。

(五) 以上のべたように、いわゆる株主優待費はその動機からすれば会社の資金の蒐集のための誘致金的性格を有するとともに、会社資本的性格を喪失した株式の性格、機能の面からと、その経済的実質的機能が一定率の利息類似の性格と機能とを有する面からして、事業会計上損金とみるべきである。この点で被控訴人主張のように「資本の払戻しまたは利益の処分」として益金とみる立場は株主相互金融会社の本質を誤解した見解であり否定されなければならない(昭和三五年一〇月七日の最高裁判所第二小法廷の判決もこの種株主優待費を雑所得と認めているのである)。

(第二)

被控訴人の主張要旨

一、別紙目録記載の更正決定の根拠について。

被控訴人は、破産会社計上の当期純損失金を基礎とし、これに後記のような加算、減算をして、別紙目録記載の各更正決定の金額を算出したものである。

(一) 別紙目録記載(1)の更正決定(昭和二七年四月一日から昭和二八年三月三一日までの事業年度分)について。

(1) 破産会社計上の当期純損失二九、一五三、一三三円

(2) 加算分

(イ) 市町村民税 一三、二〇〇円(破産会社はこれを損金に計上したが、市町村民税は法人税法第九条第二項により損金に算入すべきものではないから、これを否認し、益金に加算した)

(ロ) 源泉徴収加算税 二一二、七〇〇円(右と同趣旨)

(ハ) 株主優待費 四二、八五八、四九〇円(本件株主優待費は法人税法上利益と見るべきものであるから、破産会社がこれを損金に計上したのを否認し、益金に加算した)

(ニ) 仮払認定損戻入 二、四六八、三一九円(破産会社は、前期に上記金額を仮払優待費として計上していたのを、今期に支出に振替えたので、前期の認定損を当期に戻入れ加算した)

(ホ) 評価損否認 八〇二、六八四円(破産会社は、その所有株式の評価換を行つているが、そのうち、帝国化学株式会社株式一四、九〇〇株及び株式会社日立製作所株式二〇、〇〇〇株につき不当に低額な評価換をし、評価損を計上しているので、正当な時価との差額である上記金額を益金に加算した)

(ヘ) 生命保険料否認 一一〇、四〇〇円(破産会社は生命保険料を損金に計上しているが、これは退職引当金の性質を有し、税法上損金に算入すべきものでないから、益金に加算した)

(ト) 未収利息計上洩 六七、九三一円(破産会社は、貸付金勘定に貸付金を計上しながら、その既発生の利息を計上していないので、これを加算した)

(3) 減算分

(イ) 減価償却超過額の当期認容額 七、四七六円(破産会社は、前期において過大に減価償却を行い正当償却額との差額金三六、二九二円を当期に繰越していたが、当期において過少に償却を行つているので、前期超過額のうち、当期において七、四七六円を認容し、減算した)

(ロ) 評価益認定損 一四〇、九三二円(破産会社は、その所有株式の評価換に当り、昭和電線株式会社株式一〇、〇〇〇株、日野デイーゼル株式会社株式二〇〇株及びトヨタ自動車株式会社株式四、〇〇〇株につき合計金一四〇、九三二円を時価より過大に評価しているので、これを減算した)

(4) 所得金額 一七、二三二、一八三円

(二) 別紙目録記載(2)の更正決定(昭和二八年四月一日から昭和二九年三月三一日までの事業年度分)について。

(1) 破産会社計上の当期純損失 一二七、九七九、四四四円、

(2) 加算分。

(イ) 市町村民税 四〇、四二〇円(前記(一)(2)(イ)と同趣旨)

(ロ) 源泉徴収加算税 三、二七七、七五〇円(前記(一)(2)(ロ)と同趣旨)

(ハ) 株主優待費 一二四、四三二、〇〇一円(前記(一)(2)(ハ)と同趣旨)

(ニ) 貸倒準備金繰入額否認 四、九七四、八二六円(破産会社は貸倒準備金繰入額として上記金額を損金に計上しているが、昭和三〇年政令第九八号改正前の法人税法施行規則第一四条の五によりその損金算入は認められないので、これを否認加算した)

(ホ) 未収利息計上洩 一、四一一、三三二円(前記(一)(2)(ト)と同趣旨)

(ヘ) 雑損中否認 七五〇、〇〇〇円(これは破産会社が社長扱の仮払中回収不能として雑損に計上したものであるが、仮払を受けた者に支払能力ありと認めて損金計上を否認した)

(ト) 減価償却額否認 二一四、八〇〇円(破産会社は宣伝用映画フイルムを消耗品として損金に計上しながら、これと重複した減価償却をしているので、その償却額を否認加算した)

(チ) 生命保険料否認 四六、七〇〇円(前記(一)(2)(ヘ)と同趣旨)

(リ) 評価益認定損戻入 一四〇、九三二円(破産会社は、前期において過大に評価した前記(一)(3)(ロ)掲記の各株式を当期において資産から落したので、前記(一)(3)(ロ)の金額は当期において前期の税務計算と合致させるため戻入をすべきであるから、これを加算した)

(ヌ) 減価償却超過額 二七八、一〇三円(破産会社は、その固定資産につき、正当償却額より過大に償却計上しているので、これを否認した)

(3) 減算分

(イ) 評価損否認認容 八〇二、六八四円(既に(一)(2)(ホ)で述べたとおり破産会社は前期において株式評価換の際帝国化学株式会社及び株式会社日立製作所の各株式を過小に評価していたが、当期において両株式とも資産から落ちたため、前期の税務計算に合致させるよう当期において利益から減算した)

(ロ) 未収利息計上洩認容 六七、九三一円(前期において否認した未収利息計上洩を破産会社が当期において利息収入に計上しているので、当期における利益から減算した)

(ハ) 利子税認定損 八八〇、〇一九円(破産会社に未納法人税があり、これに対する利子税八八〇、〇一九円を破産会社において損金に算入していないので、その損金算入を認めて減算した)

(ニ) 減価償却超過額の当期認容額 五、九三六円(既に(一)(3)(イ)で述べたとおり、前々期の償却超過額として三六、二九二円があつたところ、前期において七、四七六円を認容した結果、二八、八一六円の否認額が繰越されているので、当期において前記(一)(3)(イ)と同趣旨により、そのうち五、九三六円を認容減算した)

(4) 所得金額 五、八三〇、八五〇円

(三) なお、破産会社は、別紙目録(ロ)記載の事業年度分につき、源泉徴収所得税額一七、一六九、六三四円(強制徴収分一三、一二〇、四五〇円、自発納付分四、〇四九、一八四円)を損金に計上しているが、元来源泉徴収所得税は、配当等の支払者がその支払に際して支払を受ける所得税の納税義務者から徴収して納付すべきものであつて(所得税法第三七条)、配当等の支払者が自らの負担において納税するものではなく、いわば通り抜け勘定として法人所得の損益にはかかわりないのであるから、被控訴人が本件更正決定をなすに当つては、当然右の破産会社の損金計上を否認すべきものであつた。しかるときは、前記事業年度の正当な所得金額は、前項記載の五、八三〇、八五〇円ではなくて、これに、右の否認額一七、一六九、六三四円を加算した二三、〇〇〇、四八四円となるのである。

二、本件株主優待費は法人税法上の損金に該らない。

(一) 控訴人は、「昭和三十五年十月七日最高裁判所第二小法廷判決も、この種株主優待費を雑所得と認めているのである。したがつて、これを会社の側からみると、つまり法人税法上の立場からみれば、経費すなわち損金とみなければならないのである」と主張されているが、右の第二小法廷判決は、この種株主優待金が所得法第九条第一項第二号にいう利益の配当に当るかどうかについて示された判決であつて、右の優待金が所得税法上の雑所得に当るかどうか、また、右の優待金が法人所得の計算上益金になるのか損金になるのかという問題とは別個の問題について示された判決であるから、本件の先例とはならないものである。

(二) 法人税法第九条第一項には、「内国法人の各事業年度の所得は、各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」と規定されているが、右の「総益金」および「総損金」の意義については、法令上直接には規定されていないので、「総益金」および「総損金」の意義については、解釈をもつて明らかにされなければならない。

ところで、「総損金」の意義について、裁判例や法人税法基本通達第五十二項等によつてすでに明らかにされているとおり、「法令により別段の定のあるものの外、資本の払戻又は利益の処分以外において純資産減少の原因となるべき一切の事実をいう」と解釈すべきであるから、資本の払戻と判益の処分は、法人所得の計算上において「総損金」に該当しないことが明らかである。

しかして、右の「総損金」に該当しない利益の処分は、単に商法上において適法な利益の処分だけに限らず、商法の見地からは不適法な処分(たとえば、蛸配当、株主平等の原則に反する配当等)や法人の決算上は利益の処分という形式をとつていない場合でも、その実質が利益の処分と考えられるようなもの(たとえば、法人が役員に対して役員賞与を支出しこれを損金で経理したようなものとか、法人が株主に対して創業何週年記念などの名称で財産を無償で支出しこれを損金で経理したようなもの)も、これらの支出はその実質が利益の処分と考えられるのであつて、総損金には該当しないと解すべきである。

このような意味において、本件の株主優待金をみれば、その支払は、控訴会社がその出資者たる株主に対して単に株主であるという理由だけで無償で法人の財産を支出しているものであるから、たとえこれらの支出が商法上の利益の配当に当らないとしても、いわゆる隠れたる利益の処分即ち益金に相当することが明らかであり、法人所得の計算上は損金に算入することができないものである。それで、従来、数多くの裁判例も、一貫して右株主優待金の支出を、法人所得の計算上において損金に算入することができないものと解されてきているのである。

(別紙)

目録

法人税関係

事業年度

申告の種類

(イ)申告所得金額(△は欠損金)

(ロ)税務署が所得として認定した金額

(ロ)―(イ)更正決定により増加した所得金額(課税標準)

法人税額(本税)

申告期限

更正決定日(課税決定日)

加算税額

(1)

昭和二七、四、一~同二八、三、三一

確定申告

△四六、七一七、一一〇円

六三、九四九、二一〇円

一七、二三二、一〇〇円

七、二三七、四八〇円

昭和二八、五、三一

昭和二九、四、三〇

三六一、八五〇円

(2)

同二八、四、一~同二九、三、三一

確定申告

△一六五、七一二、〇七〇円

一七一、五四二、八七〇円

五、八三〇、八〇〇円

二、四四八、九三〇円

昭和二九、五、三一

昭和二九、八、二四

二四四、八〇〇円

原審判決の主文、事実および理由

主文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告両名訴訟代理人は第一次に被告日本橋税務署長が破産者日本商工振興株式会社に対しなした別紙第一目録記載の各課税決定及び徴収決定並びに別紙第二目録記載の更正決定及び課税決定、被告東京国税局長が前記破産者に対しなした別紙第三目録記載の各滞納処分は無効であることを確認する、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を、予備的請求として被告日本橋税務署長が前記破産者に対しなした別紙第二目録記載の中イ欄下段の更正決定及びロ欄の課税決定を取消す訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として別紙書面(原告の主張)のとおり陳述した。

(証拠省略)

被告等指定代理人は第一次の請求に対しては原告両名の請求はいずれも棄却する、訴訟費用は原告両名の負担とするとの判決を、予備的請求に対しては被告日本橋税務署長の破産者日本商工振興株式会社に対しなした昭和二九年度前半期の分に対する課税決定の取消を求める訴を却下する、原告両名のその余の請求は棄却する訴訟費用は原告両名の負担とするとの判決を求め、原告両名の主張事実に対する答弁として別紙書面(被告の主張)のとおり陳述した。

(証拠省略)

理由

(一) 原告等の第一次的請求について

原告等は被告署長が破産者の支払つた所謂株主優待金を利益の配当と見てなした源泉所得税の課税決定、徴収決定及びこれらを前提として被告局長のなした滞納処分の無効確認を求めているところ、本件株主優待金が被告主張のように利益の配当と見るべきではないとしても被告の右誤りは明白なものとはいえず従つて本件各決定及び処分が当然無効と解するのは妥当ではない。何となれば本件株主優待金が利益の配当に当るかどうかは主として法律解釈の問題ではあるけれども右解釈をなすに当つては優待金の性質、例えばいかなる株主に、いかなる条件で交付されるものか等の事実関係の確定が必要でありその事実関係の如何によつて解釈を異にしうる余地があり、本件において右事実関係について当事者間に争ある点もあり不動のものとはいえないので、右解釈の誤りを明白なものとは謂えないと考える。よつて原告等の本件各決定及び処分の無効確認を求める請求はこの点で失当というべきである。

(二) 予備的請求について

被告主張の却下を求める理由の当否は暫くおいて、原告等の取消を求めている課税決定の内容、課税をなすに至つた基礎の事実関係については大体当事者間に争なく右決定が違法なりや否やの争点は本件優待金を法人税法上益金と見るか損金と見るかの点にあるところ本件優待金を原告主張のように利益の配当ではないとしても、当事者間に争ない事実に証人野沢時寛、谷和男、福田好の各証言を綜合して本件優待金の支払の原因は破産会社と株主との関係に基くものでその額も持株に応じてなされることを認定できるので、原告等主張のように一見破産会社と株主との間の金銭消費貸借に基く支払のように考えられるけれども、株主の持株に応じた支払金を利子ということはできないし、融資申込をなさない代償として支払われる金銭又は資金護得のために支出される金銭を必要経費とは解し難く、他にこれを法人税法上必要経費と解すべき事情を認めるに足る証拠もないので、これを損金に計上することは適当でなく、本件優待金は隠れたる利益の処分たる性質を有する支出として益金と見うべきものと解するので、この点について原告等の主張は採用できない。

他に右決定に違法な点のあることは原告等も主張立証するところなく、本件全証拠によつても右決定に違法な点は認められず、右決定は適法なものというべきで、原告等の予備的請求も亦失当である。

よつて原告等の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。(昭和三六年一〇月二五日東京地方裁判所判決)

(別紙)

(原告の主張)

第一、破産会社の経歴

日本商工振興株式会社(以下破産会社という)は、昭和二五年五月一〇日設立せられてより以来、いわゆる株主相互金融方式をもつてする貸金業その他を営んできたものであるが、同二八年八月頃のいわゆる保全経済会旋風の影響を受けて、経営の危機を招来し、翌同二九年三月一九日および同年四月三〇日に、それぞれ債権者等から破産の申立を受けるにいたり、同二九年七月八日午前一〇時、東京地方裁判所において、破産宣告を受け、原告等はいずれもその破産管財人に選任せられたものである。

第二、破産会社のいわゆる株主相互金融方式による経営実態

破産会社は、前記のとおり、貸金業その他を営業目的とし、昭和二五年五月一〇日、資本金一〇〇万円(一株の金額金五〇円、二万株)をもつて、設立され、ついで、同二五年六月より同二八年九月頃にいたるまで、一一六回にわたり、継続的に、新商法にいわゆる授権資本にもとずく新株発行の方式による各一〇〇〇万円宛の増資手続を経由し、ついに、資本金として、金一二億円を計上するにいたつたものである。しかして、右増資の手段としては、まず、株式引受人として、破産会社の役員または職員その他を形式的に設定し、株金払込については、いわゆる見せ金、または破産会社の取引銀行を株式払込取扱銀行とし、同銀行に対する破産会社の当座または普通預金を株金として、払込保管金(別段預金)口座に振替え、各増資の登記手続完了後、一時借入れの見せ金を返済し、あるいは、もとの当座または普通預金口座に戻入れする等の方法をとり、他方、破産会社はこれに対し、各増資毎に、実質上払込みなきいわゆる空株たる無記名株券を発行し、ついで、本社はもちろん、関東地方一円にわたつて設置せられた破産会社の支社あるいは支部または営業所ならびにこれらが雇用する多数の外務員(勧誘員)を動員して、不特定多数の出資者を募集し、同人等に、日賦もしくは月賦または一時払の方法によつて、券面額相当の金銭を破産会社に払込ませ、全額の支払完了後、右株券を出資者等に引渡すとともに、その後三ケ月ないし一年を経過した後、出資金の支払方法および期間の長短によつて異るが、一定の割合による高率のいわゆる株主優待費なるものを、毎月利礼同様、破産会社から、出資者宛に支払う旨約定し、あるいはまた、券面額相当の出資金の返還を欲する希望者に対しては、その後、券面額相当の金銭の支払完了後、三ケ月ないし六ケ月を経過した後、いつにても、破産会社に対して、当該株券を提供すれば、破産会社は、株式譲渡代金の立替払と称して、出資者に対し、券面額相当の出資金の払戻をなす約定をなし、これら譲渡申込にかゝる株券については、さらに、希望者を募集し、前記同様の方式手段により、出資者の払込を受けるという形式と、新株発行による増資という二元的操作を繰り返えしていくのである。したがつて、破産会社発行にかゝる株式については、実質的かつ適法な株式引受および株金払込の事実はなく、いわゆる株式譲渡代金の払込ないしは回収があつて、はじめて破産会社の営業資金の増加となりうるわけであるが、この場合においても、一時払によるいわゆる株式譲渡代金の決済は少なく、その大部分は、日賦ないしは月賦の方法により、調達せられていた関係上、破産会社の営業資金の増加は、これらのいわゆる株式譲渡代金の分割払込が完了することによつて、はじめて達成せられるわけであり、他方、出資応募者のいないとき、あるいは、それが不足のときには、つねに、仮設名義人に対する貸付金名義で、株券が破産会社に留保されていたわけである。

第三、本件課税決定等の対象ならびにその根拠

一、ところで、被告日本橋税務署長(以下被告署長という)は、前項記載のごとく、破産会社が、一定の条件と利率とにより計算し、特定のいわゆる株主に対して、支払をなし、または、支払をなすべき約定のいわゆる株主優待費に対し、これを所得税法九条一項二号同法三七条にいわゆる「配当所得」の概念中に含まれるものとして、その支払者たる破産会社に対し、新規に、源泉徴収の義務と同時に、これを納付する義務を課し、これに対し、別紙第一目録中、課税決定の日欄記載の各年月日に、それぞれ課税決定をなし、これら課税決定にもとずいて、同目録中、右に相当する徴収決定の日欄記載の各年月日に、それぞれ徴収決定をなし、ついで、被告東京国税局長(以下被告局長という)は、遂次、同目録中、右に相当する滞納処分の日欄記載の各年月日に、右租税の滞納処分として、破産会社所有にかゝる財産を差押え、かつ、これを公売処分に附してきたものである。

二、つぎに、被告署長は、前記のとおり、いわゆる株主優待費を、所得税法九条一項二号同法三七条にいわゆる「配当所得」の概念中に含まれるものとして、これに対し、源泉徴収の義務を課し、しかして、法人税法上、右株主優先費および源泉徴収税額の支払を、破産会社の損害勘定に繰り入れることなく、すべてこれを益金と認定し、これに対し、別紙第二目録中、課税決定の日欄記載の各年月日に、それぞれ課税決定をなしたものである。

第四、いわゆる株主優待費の性質について

一、前項記載のとおり、被告等は、「株主優待費」を、株式の利益配当所得と認定し、かゝる立場にしたがつて、これに対し、課税決定をおこない、その後、徴収および滞納処分を順次なしてきたものであるが、原告等が、本訴において、被告等の右各処分行為が、いずれも無効である旨の確認を求めるべき根拠とするところは、後述のように、「株主優待費」なるものは、到底「配当所得」とみるべからざること(逆に損金とみること)を、基本的理由とするものであり、したがつて、本件課税決定等の当否を論ずる前に、原告等は、「株主優待費」の性質について、左のとおり、主張するものである。

二、第一に、「株主優待費」とは、前記第二項記載のように、「株主」全員に対して、平等に支払われるものではなくして、「株主」中、その払込を完了し、かつ、一定の期間を経過したものに対して、のみ、支払われるものであり、他方、「株主優待費」は、破産会社の利益の有無にかゝわらず、「株主」募集の際に、あらかじめ予定された一定の条件と利率とにより計算せられた金額を支払う仕組になつており、しかもまた、「株券」には社債券の利札同様、優待費なる欄が設けられ、かつ、破産会社の会計年度を無視して、毎月その支払額が予定記入されており、このような意味において、株主または株式とは名ばかりであつて、その実体は、商法上の株式会社の株主または株式の実態を具備したものではなく、要するに、本来、株主権を表彰し、かつ、化体すべき有価証券たる株券は、あたかも、一個の定期預金証書化しているのであり、これに相応して、「株主優待費」なるものも、本来の株式に対する利益配当ではなくして、その実体は、社会経済上、出資者に対する単なる誘致金ないしはリベートであり、出資応募者は、この予定された一定の支払金につられて、出資をなすものであり、したがつて、それは出資応募者に対する募集費とみるべく、その本質は、会計学上、費用項目、すなわち損金とみるべきものである。

三、第二に、かりに誘致金またはリベートでないとするも、前記のごとく、「株主優待費」なるものは、一定の現実化した出資金に対して、事業の成否、利益の有無にかゝわらず、一定率の支払をなすものであり、しかもまた、出資者たるものは、この一点に着目して、出資をなすものであるが、さらに、これらの事実と、以下に述べるごとく、この種破産会社の「株主」の性格とを併せ考えるならば、出資を消費寄託、優待費を当該利息とみるべきである。したがつて、「株主優待費」なるものは、到底株式の利益配当とは称しえないものである。すなわち、前記第二項記載のように、破産会社の原始株式二万株についてはともかく、その余の増資にかゝる新株全部については、出資応募者は、破産会社に対して、券面額相当の金銭を、日賦もしくは月賦または一時払の方法によつて支払い、右全額の支払完了後、株券の交付を受け、その後、所定の種別の期間経過後、あらかじめ予定された一定の条件と利率とにより計算せられた「株主優待費」の支払を受けうる約定である。しかして、破産会社は、右方式手段により、破産宣告当時、約金六億二〇〇〇万円の資金を調達してきたものであるが、このうち、「株主」に対して、「株主」相互金融方式による貸付をなした金額は、僅かに、金二〇〇〇万円程度にすぎず、その余の約金六億円は、いわゆるモーロー会社その他資力のない金融ブローカーに対する、大口の不良貸付であつて、他は人件費および物件費その他に費消されている次第である。このようにして、破産会社の現実の営業実績は、資金の無計画、無思慮な運用、いわば乱費と称して程遠からぬ実態を示すものであつて、そこには、一片の利益のかけらさえ、追求していない底の状態である。したがつて、「利益なきところ利益配当なし」の原則にしたがい、いわゆる株主優待費を、破産会社の利益とみることは、到底許されないものであり、かような意味において、株主優待費を、前述のように、一定額の出資金または預け金に対する利息とみることが、合理的であると考えられる。

四、第三に、かりにしからずとするも、右説述の基本的立論に、左の諸点を加味して、併せ考えるならば、いわゆる株主優待費とは、高々所得税法の規定外の利子所得に過ぎないものと解すべきである。すなわち、(1)いわゆる株主優待費は、破産会社の利益の有無にかかわらず、出資金に対して、つねに一定率の額であり、その結果、蛸配禁止の原則は、常態的に、無視されていること。(2)「株主」としては、同種であるが、その出資の方法および態様によつて、株主優待費の額が異り、これは、株主平等の原則とは、およそかけ離れた考え方に立脚する所以を物語るものであること。(3)破産会社発行にかゝる増資株式のすべてが、空株のかたちをとり、「株主」は、日賦月賦の分割払によつて、株式を取得しうること。しかも、その取得は、発行会社である破産会社が、いわゆる抱株(自己株取得)として保有している株式を交付すること、「株式」の処分は、破産会社に対してなされた破産会社は、利益の有無にかかわらず、これを券面額にしたがつて、受戻しをなし、その結果、必然的に、破産会社は抱株をなすこととなり、自己株式取得の原則に反するのが常態であり、破産宣告当時、この種抱株は、実に、その額面総額が、金五億円以上におよんでいるのである。これを要するに株式の観点からみるならば、本件増資にかかる株式のすべては、本来の株式の法的属性をすべて欠缺せるものである。そこで、以上に挙示する諸点から判断しても明白なように、破産会社の実態は、株式会社として保持しなければならない本質的原則である資本充実のための諸規定が、一切無視されているところに、その存在の本質的性格があるのであつて、それゆえに、その株式は原始株を除いて、株式たる経済的かつ法律的実態を何等有せず、「株主優待費」のごときは、さらに、これを上廻つて、株式に対する利益配当とは、およそ異質的な性格を帯有するものというのほかはなく、さればこそ、本件破産裁判所は、「株主」の出資返還請求権を破産債権と認め、破産原因を確定されたのである。ところで、所得税法九条一項二号は、いわゆる「配当所得」として、「法人から受ける利益若しくは利息の配当、剰余金の分配又は証券投資信託の収益の分配」を、挙示するところからみれば、その法人の利益とは、一定期間の法人の事業の総益金から総損金を控除した額すなわち純益金であることが推知され、しかしてまた、かく解することが、会計学および商法学上の観念とも一致し、かつまた法の統一的ならびに合理的解釈の原則にも一致するところである。しかして、同規定は、「利益若しくは利息の配当」として、利益と利息とを対置し、該利息は、商法二九一条所定の建設利息を指称すること、税法解釈上通説であり、実務上も、そのように取扱われている点から考えると、ここにいわゆる利益とは、商法二九〇条に規定する利益と解するのが正当である。かくして株主相互金融会社のいわゆる株主優待費が出資誘致金でないとすれば、所得税法上、残るところは、同法九条一項一号のいわゆる「利子所得」とみるほかはないのであるが、該規定にいわゆる「預金の利子」とは銀行その他通常の金融機関の預金の利子を意味するものと解すべきであるから、株主相互金融会社のごとき、特殊な街の貸金業者に対する、貸付金または預け金に対する利息は、これに該当しないものといわなければならない。

第五、本件課税決定等の当否について

一、源泉徴収税について

(一) 第一に、被告等は、前記三項説述のように「株主優待費」を、株式の利益配当所得と認定し、かかる立場にしたがつて、これに対し、課税決定をおこない、その後、徴収および滞納処分を順次なしてきたものであるが、前項記載のとおり、「株主優待費」なるものは、出資者に対する誘致金ないしはリベートであるとみるべきであり、しからずとするも高々一定額の出資金または預け金に対する利息であり、ひいては、所得税法の規定外の利子所得に過ぎないものというべきであつて、到底株式の利益配当とは称しえないものである。したがつて「株主優待費」を、株式に対する利益配当所得とみなしてなした、被告等の破産会社に対する本件源泉徴収税額の課税決定等はその対象たる「株主優待費」の本質と、それが有する社会的かつ経済的意義とを無視し曲解したものであるから、当然に無効である。

(二) 第二に、一歩をゆずり、かりにしからずとするも、「株主優待費」は、所得税法九条一項一号にいう「利子所得」に当るにすぎない。したがつて、被告等が、「株主優待費」を、同法九条一項二号にいう「配当所得」と誤つて認定し、同法三七条に規定する税率にもとずき、これに対してなした、昭和二八年八月七日以降の本件課税決定等の各処分行為は、左の事由により、いずれも無効である。すなわち、昭和二八年法律第一七六号「租税特別措置法の一部を改正する法律」によれば、所得税法にいう「利子所得」に対して課する税率は、支払を受けるべき金額の百分の十であつて、この税率は、同法施行の日である同二八年八月七日以降の分について、適用されることになつている。これに反し、「配当所得」については、同法は特別の規定を設けなかつた結果、従前どおり、百分の二十の税率による課税を受けなければならない筋合である。したがつて、本件課税決定は、前記日時以降のいわゆる株主優待費については、本来ならば、その支払額の百分の十の税率による課税をなすべきであるにもかかわらず、前記のとおり、被告等は、いわゆる株主優待費を、誤つて、「配当所得」として取扱つた結果、百分の二十の税率による課税決定をおこない、これら処分にもとずいて、徴収および滞納処分をなしたわけであるが、右瑕疵は、単に、所得税法九条一項一号と二号との適用を誤つたに過ぎないというようなものではなくして、まさに、本件課税決定を無効ならしめる明白かつ重大なものであるといわざるをえない。すなわち、課税処分の瑕疵が、税率の相異のような、明白かつ重大な違法にあたるときは、その処分は、行政官庁の取消をまつまでもなく、当然に無効であるとするのが、大審院判例(昭和二二年四月二五日、第一民事部判決、租税専売関係判例総覧六五七、六六一)の示すところであるから、「株主優待費」を「配当所得」としてなした、被告等の破産会社に対する本件源泉徴収税額の課税決定等は、前記改正法律の適用された同二八年八月七日以降の分について、当然に無効である。

二、法人税について

被告署長は、前記三項説述のように、「株主優待費」を、株式の利益配当所得と認定し、これに対し源泉徴収の義務を課し、しかして、法人税法上、右株主優待費および源泉徴収税額の支払を、破産会社の損金勘定に繰り入れることなく、すべてこれを益金と認定し、かかる立場にしたがつて、これに対し、課税決定をなしたものであるが前項説述のとおり、「株主優待費」なるものは、出資者に対する誘致金ないしはリベートであるか、あるいはまた、高々一定額の出資金または預け金に対する利息でありひいては、所得税法の規定外の利子所得に過ぎず、純然たる損金勘定であり、到底株式の利益配当とは称しえないものである。したがつて、「株主優待費」を、株式に対する利益配当所得とみなし、これに対し、法人税法上「株主優待費」、すなわち、会計学上純然たる損金勘定を、益金と認定してなした、被告署長の破産会社に対する本件課税決定の誤りは、明白かつ重大なものというのほかなく、本件課税決定は当然に無効である。

第六、右のように被告署長は「株主優待費」を株式の利益配当所得と認定し、これに対し源泉徴収の業務を課し、法人税法上右株主優待費および源泉徴収税額の支払を破産会社の損金勘定に繰り入れることなく、すべてこれを益金と認定し、もつてこれに対し課税決定をなしたものである。しかし従来る述するように本件「株主優待費」なるものは、出資者に対する誘致金ないしはリベートであるか、あるいはまた高々一定額の出資金または預け金に対する利息であり、ひいては所得税法の規定外の利子所得に過ぎず、純然たる損金勘定であり、到底株式の利益配当とは称しえないものである。このような意味において、「株主優待費」を株式に対する利益配当所得とみなし、これに対し法人税法上「株主優待費」、すなわち会計学上純然たる損金勘定を益金と認定してなした被告署長の破産会社に対する本件課税決定の誤りを不服として、原告らは別紙第二目録記載の課税決定中、昭和二八年度分の部分については、昭和二九年九月二〇日附をもつて、被告局長宛審査請求書を提出しまた昭和二九年度分前半期の部分については同二九年一二月二七日、前同様被告局長に対し審査請求をなしたものであるが、前者については、同三〇年一一月一八日附同月二二日到達にかかる書面により右請求を棄却する旨後者については、同三〇年一〇月一七日附同月三一日到達にかかる書面により右請求を却下する旨の各決定の通知を受けたものである。

よつて、原告らは従前主張した本件課税決定等の無効確認請求が仮りに認められないとしても、右両課税決定についてはその取消を求める法定条件を履践しているのであるから、予備的に右両課税処分の取消を求める。

(別紙)

(被告の主張)

一、破産者日本商工振興株式会社(以下破産会社と称す。)のいわゆる株主相互金融方式による経営の実態について

(1) 破産会社は、昭和二十五年五月十日資本金壱百万円を以て適法に設立された株式会社であつて、爾来百拾数回にわたり増資を行い、昭和二十八年九月四日現在、その資本金は十二億円に達するにいたつた(甲第一号証参照)。

(2) 破産会社は、主として貸金業を営むを目的としているものであるが、これについては昭和二十五年六月四日貸金業等の取締に関する法律にもとづいて貸金業の届出書を大蔵大臣に提出し、届出受理書の交付を受けている。

(3) 破産会社が増資をなすに当つては、毎回の募集券面額の総額を千万円とし、証券取引法第四条の規定にもとずき、増資の都度大蔵大臣に有価証券通知書を提出した後、会社の役職員をして増資にかかる株式を引き受け、払い込ましめて、資本増額の登記を了している。

株券は、一株券面額金五拾円であつて無記名である(甲第一号証参照)。なお、原告等は、株券には、社債券の利札同様、優待費欄が設けられていると主張されているが、左様の事実はない(乙第一号証参照)。

(4) 次いで破産会社は、株式を譲り受けて会社の株主となることを希望する者を募集し、株式の売買を仲介斡旋する。

破産会社の株主となることを希望する者は、株式譲受申込書(乙第二号証参照)により申込をなし、株式を譲り受けて破産会社の株主となるのであるが、株式譲渡代金は、自己の手持資金をもつて一時に支払を了することを原則としていた。しかし、便宜上破産会社から株式代金相当額の融資を受けて譲受株式代金の支払を完了して株主となり、然る後当該融資金の返済を日賦又は月賦をもつて償還することもできる。(営業案内―乙第三号証、日本商工振興株式会社約款―乙第四号証参照)

(5) 破産会社は、右増資により得た資金を運用して事業を遂行したのであるが、その主たる事業である貸金業の内容についてみると株主となつた者のうち融資を希望するものに対しその持株の券面総額の三倍(十五万円)を限度として融資する(乙第四号証参照)ほか、一般の融資を希望する会社等に貸付けてその利息収入を得ていた。

(6) ところで、破産会社は、会社の株式を取得して株主となつた者に対しては会社の決算による株主配当をすることは勿論であるが、そのほかに、株式譲受代金を自己の手持資金で支払つたか、または株式譲受代金を破産会社から借り受けたかの別に応じ、一定利廻りの優待費を支払う。此の場合株主たる地位において前述の三倍(十五万円)を限度として破産会社から融資を受けた株主に対して支払う優待費は、この半額としていた(乙第三、第四号証参照)(なお、乙第五号証参照)

二、日本橋税務署長の行つた課税処分

日本橋税務署長は、第一項(6)記載の優待金についてこれを法人所得計算上損金とならないものであり、これは会社の利益処分であつて、所得税法上も利益の配当に相当すると解しているところ、調査の結果破産会社がその支払つた株主優待費(原告提出第五準備書面別紙目録金額のとおり)を法人所得計算上損金に算入処理し、また、その優待金支払の際所得税法所定の所得税を源泉徴収していないことが判明したから、この支払優待金の損金算入計算を否認する法人税の更正処分を行うとともに、支払者たる会社に所得税の源泉徴収決定処分を行つたものである。

三、被告等の行つた処分は、いずれも当然無効ではない。

(一) 税務署長は、納税義務ある法人の法人税について、その課税標準、法人税額を調査して提出された確定申告書の申告額と異るとき更正処分をなすのであり(法人税法第二十九条、第十八乃至第二十一条、第一条同法施行規則第四十一条)、また、税務署長は、支払をなす者が、利益の配当をしているかどうか、その配当所得の支払について所得税法所定の所得税を納付したかどうかを調査し、その条件を具備すると認めた支払をなす者に対して源泉徴収所得税の徴収決定をするのであるが(所得税法第四十三条、第三十七条、第一条、同法施行規則第六十四条)、法人の支出が損金にあたるかどうか、その支払う利益の配当が商法上適法であるかどうか、更に、その法律的、経済的実質が外観上のそれと異るものであるかどうかということは、当事者の意思、契約の実態など諸事実を探究認定した後、はじめて決定し得る問題であるから、そのような点については外観上誰でもがすぐさま誤なく認識判断できるような問題ではない。従つて、本件破産会社が前述した経営方式によつていわゆる「出資者」に対し優待金を支払つている事実に関し、被告日本橋税務署長が、仮に、原告等の主張するように、認定を誤つて本来損金たる性質の支出についてこれを否認し、利益の配当をしていない破産会社に源泉徴収所得税の徴収決定をしたとしても、これを理由に取消の問題を生ずるかどうかは別として、それをもつて本件課税処分を無効ならしめるような外観上明白な瑕疵があるということは到底できないところであるから、被告日本橋税務署長のなした本件課税処分は、当然無効ということはできない。

(二) 課税処分は、たとえ違法であつて取り消されるべきものであつても、適法に取り消されない限り完全にその効力を有するものであるから、右課税処分に基く租税の徴収のためなされた滞納処分は、無効ではない。従つて、被告東京国税局長のなした本件滞納処分は当然無効ということはできない。

原告等は、本件課税処分の当然無効を前提として、本件滞納処分もまた当然無効であると主張されるが、本件課税処分が当然に無効でないことは、前述したとおりであるから、原告等の主張は、その前提において誤つているといわねばならない。

四、昭和二九年度前半期分に対する課税決定の取消を求める訴について却下を求める理由

原告等は、破産者の昭和二九年度前半期分について、被告日本橋税務署長において課税決定をしたと主張し、該課税決定の取消を求めておられるが、被告日本橋税務署長は、右課税決定をしたことはないから、原告等の右訴は、取消を求める対象たる処分を欠き不適法であることを免れない。すなわち、原告等の主張される昭和二九年度前半期分法人税額本税一、二二四、四六〇円は、法人税法第一九条第六項の規定により、破産会社から申告書の提出があつたものとみなされ、このみなす申告に基いて算出される税額であるにすぎず、被告日本橋税務署長において何等課税処分を行つたものではないから、課税処分があるものとしてその取消を求める原告等の訴は、不適法である。

なお破産会社の昭和二八年度分法人税について、原告等主張のとおり課税処分があり、これに対する審査請求、審査決定のあつたこと、同昭和二九年度分について、原告等主張のとおり審査請求及び審査決定のあつたことは認める。

五、本件法人税及び源泉徴収所得税の課税処分の適法性について破産者がいわゆる出資者に対し支払つた優待金は、法人所得計算上損金とならないものであり、これは、会社の利益処分であつて、所得税法上も利益の配当に該当するものであるから、被告日本橋税務署長の課税処分には何等違法がない。以下これについて述べる。

一、本件優待金は、法人所得計算上損金とならないものである。

(一) 破産会社は、株式会社であつて主として貸金業を営むことを目的としているものであるが、その貸付資金を得るため累次の増資手続を経て資本金を増大し、これによつて得た増加資本金をもつて資金に充てていたものである。昭和二九年三月三一日現在において二五、六三一名にのぼる株主等(甲第七号証の一第五項参照。)は、会社の増資による発行株式を譲り受けて株主となつたもので、一般の事業会社等えの株式投資の場合と区別すべき理由がないものである。

この点について、原告等は各増資の際の払込は、いわゆる見せ金による払込であつたことを理由として「株式とは名ばかりり」であり、従つて、「株主とは名ばかり」であると主張されているが、新株発行の無効は、一定期間内に提起される会社に対する訴によつてのみ主張することができるもので、破産会社の各増資による新株の発行について、右各期間内に無効の訴の提起された事実はないから、新株発行自体を無効とすることはできず、見せ金による払込であるため、実際上は未払込であるため、実際上は未払込であつて、当該株式は失権株式であるといわねばならないとしても、それが広く大衆に売り出され、譲受人を生じた後は、当該譲受株式は、有効化するものであると解するのが相当である。そして譲受人が譲受株式代金を支払うことによつて破産会社の資本は実質的にも充実されたのであるから、譲受によつて株主となつたいわゆる出資者を「株主とは名ばかり」であるとして株主であることを否定することはできない。なお、新株発行の無効は、無効判決の確定によつて、将来に向つて効力を生ずるにすぎないから、それまでの間に新株の発行を前提としてなされた利益の配当は、利益の配当として有効であるといわねばならないのである。

また、原告等は、破産会社は、利益の有無に拘らず、一定率しかも高利廻の優待金を支払うべき旨を出資者との間に約しているから、出資者は株式の譲受によつて株主となつたのではなく、会社に対し出資金を消費寄託したものであると主張されるのであるが、右の破産会社と出資者間の契約なるものは、出資者が株式を譲り受けて株主となることを条件としてその効力を生ずるものにほかならないから、会社と株主との間の契約であるといわなければならない。しかして、その契約は、会社が多大の収益を挙げる見込があり、高率の優待金支払の可能であることを予想してなされたもので、その性質は、会社が株主に対して配当の内払をなすべきことを約した契約であるといわねばならない。

すなわち、破産会社が出資者に対し、利益の有無に拘らず一定率の優待金を支払うべき旨を約している当該契約は、会社と株主間の契約であつて、会社が配当の内払をなすべきことを約した契約であるとみるのが相当なのであつて、原告等の主張されるように、消費寄託契約であると解さるべきではない。

要するに、いわゆる出資者は、株式を譲り受けて破産会社の株主となつたもので、株主以外の者すなわち預金債権者であるということはできず、会社がこれに対し利益の有無に拘らず一定率の優待金を支払うべき旨を約しても、株主を預金者に変更するものではない。

(二) 法人税法第九条によれば、内国法人の各事業年度の所得は、総益金から総損金を控除した金額によることになつている。しかして、総益金とは、法令により別段の定めのあるもののほか、資本の払込以外において純資産増加の原因となるべき一切の事実をいゝ、総損金とは、法令により別段の定めのあるもののほか、資本の払戻又は利益の処分以外において純資産減少の原因となるべき一切の事実をいうもので、右に明かなように、資本の払込、資本の払戻及び利益処分は、法人の損益に関係がないもので、損益に関係のある取引すなわち、いわゆる損益取引と混同されてはならないものである。

資本の払込、払戻は、いわゆる資本取引であり、利益の処分も一種の資本取引として、損益取引と区別されねばならないのであるが、本件優待金の支払は、右のいずれに該当するかが本件での問題である。

破産会社は、貸金業者であるが、その貸付資金を、すでに(一)に述べたように、増資手続による増加資金に求めたのであつて、決して、資金を借り入れたものではない。現に破産会社も出資者からの受入金を借入金として経理しておらず、なお、破産会社が貸付資金に充てるため、社外から借入金を得た事実は認められないのである(甲第七号証の一、貸借対照表、参照。)されば、借入のないのに借入金利息を支払うことは考えられないから、破産会社がいわゆる出資者に支払う優待金は、預金利息や借入金利息ではないといわなければならない。

原告等は、優待金は、募集費に該り、損金であると主張されるのであるが、優待金は、株主に対してのみ支払われたものであつて、社外の第三者ないし一般公衆に支払われたものではなく、また、前述のように、契約に基いて支払われたものであつても、会社と株主間の契約に基くものであつて、会社と第三者間の会社事業遂行上の契約に基く支払ではないから、損益取引(会社の事業遂行に伴つて損益を生ずる性質の取引)に該るものではないといわねばならないから、原告等の主張するような広告費、宣伝費に該当するものではなく、会計学上費用項目に属するということはできないものである。

優待金の支払は、右のように、預金利息、借入金利息の支払でなく、広告費、宣伝費の支出ということもできず、なお、その他事業遂行に伴い発生した損金に該当するということは到底考えられないものである。

しかして、優待金の支払は、増資又は減資手続による資本の払込又は払戻でないことは明白であるから、結局利益の処分に該当する(このことについては、なお、後述する。)ものである。

右の次第で、被告日本橋税務署長が本件優待金の支払は、損金に該当しないとして、破産会社がこれを損金に計上している計算を否認し、課税処分を行つたことは、何等の違法はなく、その取消を求める原告等の請求は失当である。

課税処分が当然無効でないことについては、すでに述べたが、法人税の課税については、優待金の支払が損金であるか否かは、破産会社の所得額の認定の一資料であるにすぎず、所得金額の多寡の認定は、これを誤つても課税処分を当然無効ならしめないことはすでに最高裁判所の判例であるから、法人税の課税については、この点からしても、その無効確認を求める原告等の請求は失当であるといわなければならない。(最高裁判所昭和三二年(オ)第八五九号、昭和三三年六月一四日第一小法廷言渡判決。参照。)

二、本件優待金の支払は、会社の利益処分であつて、所得税法上利益の配当に該当するものである。

(一) 優待金の支払が損金とならないことは前述したが、損金とならない法人の支出を挙げてみると、第一に、減資、合併または解散に伴う資本の払戻又は残余財産の分配があり、第二に、利益の処分たる性質を有する支出すなわち株主に対する利益の配分、会社役員に対する賞与、第三に、特殊な政策目的に基いて損金となさない交際費、寄附金等の限度超過額である。

しかして損金とならない優待金の支払は、右の第一、第三に該当しないことは明かで、会社役員に対して支払はれたものではないから、第二のうち株主に対する利益の配分以外のものに該当しないことが判明する。

(二) 右のように、優待金の支払は、株主に対する利益の配分以外のものに該らないことから、利益の配分であることが明らかであるが、被告等は、すでに、利益の配当とは、資本の払戻の手続によらないで、会社の純資産が出資者の利益のために減少する場合をいうものであることを述べている。しかして、本件優待金の支払は、この場合なのであつて、株主に対する利益の配当に該るのである。

(三) 所得税法上の株主に対する利益の配当とは、商法上適法な配当がなされた場合に限るとの見解があるが、このような見解の誤りであることは、かかる見解によるときは、法人の操作によつて容易に課税を免れるに至ることを考えただけで明かであろう。

利益の配当であるか否かは、会社から株主に会社の資産を交付する場合、その性質が何かということであり、その性質は、一個不変であつて、会社の操作によつて容易に変更されるものでないことを見落してはならない。

また、商法自体における「配当」も、商法上適法な利益の配当を意味しているのでないことは、商法第二九〇条第二項、同法第四八九条第三号の規定からして明白であろう。すなわち、商法自体も利益の配当の概念を適法、適式になされた配当に限らず、実質的に予定しているもので、その概念は、被告等が前述したとおりのものでなければならないのである。

しかして、このように解することは、租税法律主義に違反するものではない。

(四) 原告等は、優待金は、契約上の義務に基いて支払われるものであるから、利益の配当に該当しないと主張されるもののようであるが、契約上の義務に基くものであつても、株主が会社から減資手続によらず無償で会社資産の譲渡を受ける限り、利益の配当であることに変りがないことは、前述したところから明かであろう。

(五) 原告等は、「利益なくして配当なし」の原則があるとされ、破産会社は、終始欠損続きであつて利益を挙げたことはないから、優待金の支払は利益の配当ではないと主張されている。

しかし、配分される利益は、当該事業年度の利益に限らず、過年度の利益の剰余ないし繰越であつてよいし、また、将来の年度の利益であつても妨げないから、利益なくして配当なしの原則が妥当するとしても、本件優待金の支払は、利益の配当に該当するものと解することができるのである。

すなわち、優待金の支払は、それが現実に支払はれている限り、会社所得の計算上損金とはならず、常に利益の配当であると解されるものであつて、会社の利益は架空のものであつても、また、会社の経営は、赤字続きであつても妨げないのである。

優待金の支払を受けたいわゆる出資者は、出資金に対する対価としてこれを受けているから、利益の配当を受けたものとして所得税を課されることは当然であつて、右所得は、所得税法上配当所得に該当し、雑所得に該るものではない。

(六) 以上述べたところから、被告日本橋税務署長が優待金の支払を利益の配当と解し、破産会社に対し源泉徴収所得税を課税したことには何等違法がなく、その当然無効でないことはもとより、取消事由もないから、原告等の請求は正当の理由がないものといわねばならない。

(別紙目録省略)

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